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Academic Detailing について

 

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Academic Detailingについて

1.はじめに

アカデミック ディテーリング(Academic Detailing)は、広義には文字通り、学術的な情報を詳しく説明することと解釈される。しかし、海外で普及しているAcademic Detailingは、大学や公的機関による医薬品の適正な処方や使用に向けた教育的介入を指しているが、国内ではまだほとんど知られていない1)。
患者の安全性の問題,また高齢化時代を迎え医療費の高騰などが懸念されるなか,Academic Detailingが注目を集めている。海外では、臨床薬剤師の経験者などがその担い手として医療の質の向上に貢献している。Academic Detailingは、医学的エビデンスに基づいた、費用対効果を考慮した薬剤の選択ができるような処方の改善を目指しており、欧米各国では多くの国で、公的なプログラムとして実施されている。

 

2.Academic Detailingとは何か

Academic Detailingは、医療者に対する教育的なアウトリーチの手法で,「医師、とりわけ処方医(プライマリケア医)に対し、有効性・安全性・費用対効果を考慮した適切な臨床上の判断が行えるように、訓練を受けたAcademic Detailerが行う支援・推進活動」のことをいう。重要なことの一つは、これを行う関係者(Detailer、スタッフなど)が製薬企業と金銭的関係をもたないという点である。処方医の最近の処方パターンに関するベースラインの知識やモーティベーションなどを理解した上で、双方向的な情報活動とコンサルテーションを行うため、コミュニケーション能力も重要となる。
すでにこのシステムが有効に機能している欧米の国々では、Detailerは薬物 治療や医薬品情報の知識や経験が豊富な臨床薬剤師やその経験者が圧倒的に多く、Detailing活動は、専門薬剤師のミッションのひとつとして重要視されている。そのほか、医師、薬剤師、看護士など様々な医療関係者がDetailerとして活動している。Academic Detailingの方法は国によって方針や手法の違いがあるが,ある治療に関するトピックや問題に対し,処方医特にプライマリケア医とDetailer がフェイスツーフィスで話し合うというのが基本である。なお、Academic Detailingという表現のほかに“Educational Detailing”,“Counter Detailing”または“Educational Visiting”という言い方なども同義語として用いられる。
Academic Detailingモデルのプロセス(Fig.1)の一例を以下に示す。

1.公的機関や自治体等が、特定の治療に関するトピックや問題に対し、医療費の削減や不適正な使用の是正を目的にプログラムを立ち上げる。
2.そのエビデンスとなるデータなどレビューした詳しい資料を基に、医療従事者および患者用に要点をまとめたパンフレットを作成する。
3.Detailer は対象となるプライマリケア医を訪問し、フェイスツーフィスで、その資材を用いて話し合いを行う。
4.Detailer は処方医の処方パターンに関する知識やDetailingに対する理解を把握しながら、双方向的な情報提供を行う。

 

2.Academic Detailingとは何か

 

Academic Detailingの活動のゴールとして,以下のことが挙げられる。
薬物治療(処方)が,有効性,安全性および費用対効果について最新の正確なエビデンスに基づくようになること
最善の利用可能な科学と実際の臨床での処方との間でのギャップを埋めること
医学的エビデンスに基づいた患者の安全性の支援,また,費用対効果を考慮した薬剤の選択ができるような処方の改善を目指すこと。

 

3.なぜ、 Academic Detailingが必要か

製薬企業のMR(Medical Representative)は自社製品の販売促進のために医師や薬剤師を訪問し、detailing活動を行っている。そのためMRは米国では“ Drug Detailer”といわれている。その製品の資料はグラフィック付のわかりやすいものであるが、医師等はそれが他の製品と比較しより効果的で安全で費用対効果の高い選択肢かどうかという情報は得られない。
Academic detailingは、製薬企業の効果的なコミュニケーションの手法を取り入れたものではあるが、医薬品の適正な使用に資するためには、コマーシャルベースの情報や臨床経験だけでは十分とはいえず、公的な安全性情報、いくつものジャーナルの臨床論文など医薬品や薬物治療に関する情報を総合的に評価する必要がある。しかし、臨床現場にあっては根拠に基づいた情報を、網羅的かつ系統的に整理・評価し臨床応用するには、時間的にも困難を極める状況がある。そこで、Academic Detailingによるエビデンスに基づく評価された包括的な情報提供の重要性が認識され、その活動が推進されることになった。

 

4.Academic Detailingの効果

Academic Detailingに関する最初の論文2)が1983年に発表された。著者の一人であるハーバード大学医学部のJerry Avorn氏は、Academic Detailingの草分け的存在であり、現在米国NaRCAD ( Resource Center for Academic Detailing)3) の共同ディレクターを務めている。この論文では、435人の処方医を対象に、過剰に使用されていた3薬剤の処方を減らすことができるかどうかについて検証 した。処方医は、何も介入を行わないコントロール群、中立的な医薬品情報の印刷物を送付した群、および臨床薬剤師がその印刷物を持って教育的な訪問を行った群の3群にランダムに振り分けられた。その結果、薬剤の処方やコストの削減に関し、コントロール群に比べ訪問群では有意な削減効果が見られたが、印刷物の送付群では有意な効果は見られなかった。また、訪問群の医師に対し9か月の継続的な観察が行われたが、その汎用薬の処方は14%の削減となり、医師の処 方は以前の処方に戻らなかったことが実証された。
また、コクランライブラリーから出されたシステマティックレビュー4)では、69 件の研究を解析した結果、処方の変更については一貫した効果が示され、その重要性が示唆した結果となった。Academic Detailingによる介入は医療行為の改善に効果的で、その効果のレベルは小から中等度であったと結論している。
その他、Academic Detailing活動の費用対効果についは、米国の医療保険メディケイド5)、オーストラリア6)、英国7)等で医療費削減に貢献できたとする研究がいくつか示されている。

 

5.各国の取り組み

欧米各国で、Academic Detailingプログラムが実施されているが、米国とオーストラリアのケースについて紹介する。

 

1)米国の場合

米国では、公的な医療保険の組織や政府機関が、医療費高騰に対処するために、 Academic Detailingの取り組みを約30年前から開始している。2009年には、議会で連邦予算が割り当てられ、2010年にはヘルスケア改革法に含まれ た。現在、医療研究・品質調査機構AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality)の資金提供による NaRCADが中心になってこの取り組みを推進している。また、NaRCAD と連携したIDIS(Independent Drug Information System) 8)では、ハーバード大学医学部と連携し最近のすべての文献をレビューし具体的なdetailing プログラムやエビデンスに基づいた各治療に関する情報資材を医療者用と患者用にしている。具体的には、抗精神病薬療法、鬱血性心不全、HIV/AIDS、 慢性疼痛、心房細動、不眠、骨粗鬆症、慢性閉塞性肺疾患、認知障害、2型糖尿病、降圧療法、脂質低下療法、抗血小板療法、酸抑制療法等以下の治療に関する 情報資材が提供されている。Fig2に一例として抗精神病薬療法の資材を示す。要約版(Summary brochure)、エビデンス文書(Evidence document)、図表のみの参照カード(Reference card)、患者向パンフレット(Patient brochure)の4つの資材から構成されている。
 

 

1)米国の場合
Fig2.2型糖尿病管理の資材

 

2)オーストラリアの場合

オーストラリアでは、1980年代にはいり臨床薬学が興隆し、病院内で臨床薬剤 師は医師に対し、Academic Detailing活動に取り組んでいた。臨床薬剤師は有効な治療に関して新たなエビデンスに対する理解を深める一方、コミュニケーションスキルも上達さ せ、患者の転帰の改善に貢献できるようになった。1991年、オーストラリア政府は、教育実習病院の臨床薬剤師による地域の開業医に対する Academic Detailing活動を試行し、その取り組みは以後成功を収めていった9)。それは1997年のNPS(National Prescribing Service)の設立につながり、今日では ”NPS – better choices, better health” として継続されている。現在、臨床薬剤師を経験した約1000人のDetailerがNPSで活動している。

 

3)英国の場合

英国NICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)から診療ガイドラインが出されていが,その診療ガイドラインに則り治療の意思決定の改善を支援する活動が NICE Academic Detailing Aids(ADAs)*として始まっている。2012年から,薬物治療のなかでも重要な薬剤,例えば喘息,糖尿病,認知症に使われる薬剤などを QIPP(Quality, Innovation Productivity and Prevention)薬と定めている。それらの薬剤を含む治療ガイドラインについて,Academic Detailingのアプローチを用い,その要点をガイドラインの冒頭に示し,何が重要なポイントなのかわかるように,表形式で簡潔に示している。

 

6.Academic Detailingにおけるコミュニケーションの手順

NaRCADが主催する“Academic Detailing”のトレーニングセミナーが2012年10月に2日間にわたりボストンで開催され、オブザーバーとして参加する機会を得た。脂質管理に 関するAcademic Detailingトレーニングが行われ、その時の資材の一部を示す(Fig3)。

 

6.Academic Detailingにおけるコミュニケーションの手順

 

NaRCADが提供している“ Introductory Guide to Academic Detailing”に基づき、Academic Detailingにおけるコミュニケーションの手順を示す(Fig4)。

 

6.Academic Detailingにおけるコミュニケーションの手順

 

1)紹介

最初の訪問では、医師との人間関係を構築するのが重要である。訪問目的の意義を明確にし、さらに次回の訪問への足掛かりを作る。

 

2)必要性の評価

臨床医の状況や必要としていることを理解するために訪問を調整する。医師のニーズに合った話の内容にする必要がある。
橋渡し:紹介から具体的な話にスムースに移行するためのストレートな方法で、話題の導入を行う。
質問形式:会話を展開するために、最初は、Open–ended Questionsを用いて、処方医が考えていることを話してもらう機会を設けるのがよい。

 

3)キーメッセージ

Detailerが伝えるべきキーメッセージは何かを把握しておく。キーメッセージは、一般的には臨床上の推奨で、処方医がなるべく多くのメッセージを受け入れるのを手助けすることである。
特徴/ベネフィット:製品の特徴としてのベネフィットが処方医のニーズにいかに合致するかを見極めるべきである。ベネフィットが医師の意見や行動を変える力となる。

 

4)バリアーと解決策

バリアーとは、臨床医が受け取るキーメッセージの受け入れに対する障害のことで、多くは、「反対」というレスポンスであらわれる。バリアーに対する準備をしておくべきで、バリアーの対処として何が実現可能なことかを準備しておく。

 

5)異議(「反対」)への対処

処方医は、用意したメッセージに必ずしも受け入れてくれるわけで はない。しかし、「反対」にあっても、Academic Detailerとして、あなたのスキルが失敗のサインまたは否定的な結果と考えなくてよい。実際、「反対」は参加のサインでもあり、重大な関心事として 受け取っている可能性がある。

 

6)要約

Academic Detailingのまとめは手短に行う。要約は、臨床医が同意し、結論に至ったキーメッセージの概要である。要約のゴールは話し合いの中でもたらされた キーメッセージについて同意を得ることである。要約を言い終えた後で、キーメッセージに対して実行可能か尋ねる。臨床医が受け入れて、変わってくれること によりよい理解を示す。今回のテーマとなる「脂質管理」(Table1)についてEBMに則った薬物治療に関するDetailingのプロセスやスタチン 系薬剤の選択に際し、用量別効果のレベル(LDL低下)と月額費用(米ドル)の比較も行われた(Fig5)。セミナーの目的も、Academic Detailing の推進とAcademic Detailerの育成で、Academic Detailingの理論、ソーシャルマーケティッグの原則、 臨床でのエビデンスの評価 、 スモールグループでの実践と評価が主な項目であった。両日とも、午後のセッションは、実際にDetailingを行い、最後は医師の評価を受け、合格者に は修了証が与えられた。

 

6.Academic Detailingにおけるコミュニケーションの手順

 

7.今後の展望

各国で、Academic Detailingシステムの枠組みがすでに構築されており、多くの経験を積んだ薬剤師が、薬物治療や処方の改善に、医師を中心とした医療従事者に対する教育的役割を担っている。
国内では、薬学教育が6年制となり、医療の高度化に伴い医薬品の有効で安全な使用といった社会的要請に応え、より専門性をもった薬剤師の育成が進められている。厚生労働省医政局は、平成22年4月30日付けで「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」を通知し、薬剤師がチーム医療において主体的に薬物療法に参加することの有益性が指摘されている。今後は、第一段階として根拠に基づいた医薬品情報基盤の構築と情報の共有化が進み、次に薬物 治療・医薬品情報評価教育の充実やコミュニケーション能力の向上も望まれる。
国内で、Academic Detailing活動の重要性が十分に認識されていくには,個々のレベルでのAcademic Detailing能力の向上が必須となる。また,広い意味でのAcademic Detailing活動やその考え方は,医師に対してだけではなく,薬剤師間やほかの医療従事者や患者に対しても広く活用できることは言うまでもない。それは、患者と医療従事者間で情報を共有して,治療を決定するShared Decision Makingにつながるものである。
今後,日本の医療ニーズに合うようなAcademic Detailingの取り組みを探っていく必要があると考える。国内でもAcademic Detailingシステムの基盤整備が進み、Academic Detailing活動の担い手として薬剤師の活動が広がることが期待される。

 

8.引用文献

1) Yamamoto M. Academic Detailing for best practice and Pharmacists’ Role, Yajkugaku Zasshi, 134(3):355-362, 2014
2) Avorn J, Soumerai SB. Improving drug-therapy decisions through educational outreach. A randomized controlled trial of academically based "detailing". N Engl J Med. 308(24):1457-63. 1983
3) NaRCAD (National Resource Center for Academic Detailing), cited 20 February, 2015
4) O'Brien MA, Rogers S, Jamtvedt G, Oxman AD, Odgaard-Jensen J, Kristoffersen DT, Forsetlund L, Bainbridge D, Freemantle N, Davis DA, Haynes RB, Harvey EL.Educational outreach visits: effects on professional practice and health care outcomes. Cochrane Database Syst Rev. 2007 Oct 17;(4):CD000409.
5) Soumerai SB., Avorn J., Med Care, 24(4):313-331. 1986
6) May FW., Rowett DS., Gilbert AL., McNeece JI., Hurley E., Outcomes of an educational-outreach service for community medical practitioners: non-steroidal anti-inflammatory drugs. Med J Aust. 170(10):471-474. 1999
7) Mason J., Freemantle N., Nazareth I., Eccles M., Haines A., Drummond M., When is it cost-effective to change the behavior of health professionals? JAMA 286(23):2988-2989 (2001)
8) Alosa's Independent Drug Information Service (IDIS) , cited 20 February,2015
9) Yamamoto M., Pharmaceuticals Monthly,54(9):1545-1549 ,2012